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一昨日、友人 久保田 紺が亡くなった。

同じ文学を志す仲間だった。

わたしが代表で、彼女が副代表という立場で、文芸の会を運営したこともあった。

しんどかったけど楽しかった。

彼女がいたから。

 

 

彼女はわたしよりあとから川柳を始めたのだけど、その腕前には舌を巻いた。

川柳もさることながら、エッセイやコラムも秀逸で、短くてキレのある、気持ち良い文章を書くひとだった。

 

 

今日は、彼女が前に書いたエッセイを読んで、またちょっと泣いてしまった。

めそめそした涙ではなく

星になる彼女を見送る涙です。

 

あらためて思う。

今生きていることは、かけがえないプレゼント。

そして

やがて命を終えることもまた、かけがえないプレゼント。

 

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「月」 久保田 紺

 

大きな月。

あの夜の月もそうだった

 

助けてもらうつもりで入った病院で

思いがけない病名を聞く。

そしてこれも思いがけない父の涙。

 

その7年前から、私は父の事務所で働くようになって

父を先生と呼んでいた。

一緒に働いている弟は中田くん、夫も先生。

顧問先になる上の弟もいとこも社長と呼んで

身内の中にいながら

私はひとりぼっちだった。

 

狭い診察室には座るところがなくて

父は診療ベッドに座っていた。

座るにはベッドは高くて

父の両足はぶらぶらしていた。

 

これ以上なにもできないこと。

べつの病院を探して欲しいこと。

退院して欲しいこと。

 

 

驚き過ぎて、もうなんにも感じなかった。

ただぶらぶらする父の足を見ていた。

するとどこからか嗚咽が聞こえた。

 

わしが代わります。

わしが代わりますから

娘をを助けてやってください。

 

わあ、ドラマみたいや。

普通のおとうさんみたいや。

こんな陳腐なせりふを、吐く人ではないはずなのに。

母の葬儀でも泣かなかった人なのに。

 

自分の言われたことよりも

泣いている父のほうが不思議だった。

 

私たちはよろよろと部屋を出て

千日前通りで大きな月を見上げた。

どうして父は泣いているんだろう。

これから私たちは、どこへ行けばいいんだろう。

 

あの月の高い夜、

病気と引き換えに

私たちは親子に戻った。

もう遠い春の月の夜。

 

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ありがとうございます

 

 

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