~心とからだの平和~コラム【てんとう虫】
わたしの場合・・・
子どもに教えることよりも、子どもから教わることのほうが、多くて大きいように思います。
【てんとう虫】
息子が4歳のときのことです。
当時の息子の興味は生きとし生けるもの、特に虫さんが大好き。
歩いていても蝶ちょを追っかけ始めたり、「あっ!」と突然しゃがみこんで蟻の列を眺めたり。
家でもてんとう虫を飼っていました。
息子は幼稚園から帰ると、虫かごのてんとう虫にあいさつをするのが日課。
いつも幼稚園から帰ってくると、その園の帽子も脱がないままに虫かごとにらめっこしていたものです。
ある日のこと、いつものように幼稚園から帰るや否や、虫かごを覗き込んでいた息子が大声でわたしを呼びます。
息子は虫かごを両手で顔の高さまで上げて、なにやら神妙な表情。
「なになに?どうしたん?」というわたしに
「あのな、てんとう虫さんが動けへんのや~!」と不安げ。
息子の訴えに、わたしはかごの入口から指を入れ、草の葉に止まっている七星てんとうに触れました。
触れるか触れないかのうちに、てんとう虫はほろりと葉から落ち、まるできれいな赤い粒のようにかごのなかで軽々と転がりました。
「あぁ、たっくん」
わたしは息子の目を見て言いました。
「てんとう虫さんはな、死んでしまったんや、だから動かないんやで」
わたしの言葉に、息子は突っ立ったまま、ギョッとした顔で手にした虫かごを見つめ、次にわたしの方を見上げ、そして次の瞬間には膝からくずおれて虫かごを持ったまま大声で泣きだしたのです。
彼は小さなからだを二つ折りにし、額を床につけたまま、大きな声でおんおん泣きました。
身を震わせて泣きながら「てんとう虫さん、ごめんなさい。てんとう虫さん、ごめんなさい。てんとう虫さん、ごめんなさい・・・・」と言い続けているのです。
わたしは息子の背を撫でながら言いました。
「たっくん、たっくんは悪くないよ。てんとう虫さんはね、長生きしたから天国へいったんやで」
すると、息子は
「てんとう虫さん、長生きしてくれてありがとう。てんとう虫さん、長生きしてくれてありがとう。てんとう虫さん、長生きしてくれてありがとう・・・・」とやはり号泣の中で言い続けました。
わたしは先ほどまで、一匹の虫の死にはなんの感情も湧かなかったというのに、目の前の息子のあまりの嘆きぶりにたまらなく悲しくなり、思わず息子を抱きしめました。腕の中の息子の温かさに、あとからあとから涙があふれてきました。
そうして、わたしと息子は床の上に崩れて抱き合い、いつまでも大声で泣きました。
あれから20年近い日が流れて。
小さかった息子はうんと大きなのっぽさんになりました。
でも、優しい心はそのまんま。
小さな命を大切にいつくしむ心、わたしは息子からいっぱい教わったように思います。
ありがとうございます。
2015.7.11