ショッピングモールで途方にくれたお母さんの話
古事記を読む会「古事記塾」で毎回深い教えをいただいている、今野華都子先生からおうかがいしたお話です。
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5歳の子と乳飲み子を連れたお母さんのお話。
5歳のやんちゃ盛りの坊やと、赤ちゃんを育ててるお母さんの毎日はそれはもう大変。
赤ちゃんは2時間おきにおっぱいをあげなくちゃならないし、子育て以外の家事もたくさんあります。
ある日、お母さんは5歳のお兄ちゃんと赤ちゃんを連れてお買い物に出かけました。
お母さんは早く用事を済ませて・・・と思いながら買い物していると、坊やが
「ママ、あれ買ってー」と駄々をこねます。
「また今度ね」と言っても
「買って!買って!」の一点張り。
「だめよ」
お兄ちゃんは売り場の床にひっくり返り、大声で泣き喚きます。
お母さんは困り果てます。
「買ってくれなきゃ、ヤダー!ヤダー!!」
お兄ちゃんの声はどんどん大きくなり、売り場中に響き渡るほどです。
「だめなものはだめよ!もう!いい加減にしなさい!」
パチーン!!!
ついにお母さんの堪忍袋の緒が切れて、子どもをぶってしまいました。
子どもをぶった途端、お母さんは周りの冷たい目に気づきました。
ざわざわとささやきが聞こえてきます。
「あれ虐待じゃないの」
「あんな小さな子をぶつなんて」
「かわいそう」
「ひどいお母さんね」
お母さんは、泣き続けるわが子と心に突き刺さる非難の目に、途方にくれてその場に立ち尽くしてしまいました。
と、そのとき、1人のおばちゃんが現れました。
その大阪のおばちゃんは、お兄ちゃんに
「よう泣いたよう泣いた!えらい!えらい!」と言いました。
そしてお母さんに向かって
「お母さん、あんたもえらい!えらい!子ども育てるって、たいへんやもんなぁ!」
そう言い残すと、おばちゃんはスタスタとその場を去ってしまわれました。
お兄ちゃんに向けられた「えらい」はきっと、<これまではお家では自分がいつも一番だったのに、きっと赤ちゃんが生まれてからは小さいながらにいっぱいガマンしてるんだよね、えらいね>
そしてお母さんに向けられた「えらい」は<小さな子二人を一生懸命育ててるんだね、がんばってるね、えらいね>
大阪のおばちゃんの言葉に、お兄ちゃんもお母さんも救われる思いでした。
そればかりか、さきほどまでお母さんを非難がましく見ていた人たちさえ
<・・・そうだよね、子育てって誰でもたいへんだよ>
<そうそう、私にもそんな時期があったわ・・・>
大阪のおばちゃんの一言にお母さんを見る目が温かいものになったのでした。
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日本人は「日」(ひ)に「本」(もと)づく生き方をする国の人。
では「ひ」とは何?
「ひ」とは、「明るさ」「元気」「愛」「素直」「穏やかさ」「清らかさ」「誠実」「公平」・・・・等々であることを「古事記塾」で学びました。
「ひ」とは本来の人が持っている働きのこと。
わたしたちは、目では見えない「ひ」を表すために、見える身体を天から(ほんの100年ばかり)預かっています。
「ひ」を表す生き方ってどういうこと?
日本最古の書物『古事記』には、「すべてにとって良い一点を見出す生き方」が記されてあります。
何かあったとき、誰かを悪者にするのは簡単なこと。
やっつけたり、除け者にしたりするのは簡単なこと。
だけど、そうではなく「すべてにとって良い一点を見出す生き方」を目指してゆくことをしたいと思います。
ショッピングモールに出現した大阪のおばちゃんは、お母さんのみならず、周りの人々の心まで「ひ」の方向に導いた。
これが、自分にとっても相手にとっても誰にとっても「すべてにとって良い一点を見出す生き方」。「ひ」の生き方。
すごい。
わたしもこんな大阪のおばちゃん目指します。
ありがとうございます。
2016.5.11