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~心とからだの平和~コラム【ありがとうスイカ】

~心とからだの平和~ 3日目(最終日)

 

 誰しも忘れ得ない味の思い出があるのではないでしょうか。

 

 

 【ありがとうスイカ】

 

生涯忘れられない甘さのスイカがあります。

 会社務めをしていた数年前のこと。

その年ははからずも、何度も入退院を繰り返した一年でした。

 入院のたびに別の部位に癌の病巣が見つかったからです。

 

 

わたしと同じ部署で共に仕事している後輩や部下の人たちは全員3040代の男性たちでした。

 手術が無事済み、療養期間を経て仕事に復帰したのがまだ春浅い頃。

 女同士のように言葉数も多くなく、細やかなやりとりもないけれど、職場に復帰したわたしを彼らは喜んでくれました。

ところがそれから幾日も経たないうちに病院から連絡が入り、検査結果から再入院、再手術が必要とのこと。

 「ごめん、また入院や」

わたしはまるで何でもないことのようにみんなに告げました。しかしみんなの様子にさっと緊張が走るのが判りました。

 口には出さないけれど、自分でもこの先どうなるのかわかりません。

 

 

あくる日から再入院という日、わたしは持っている仕事も全て部下の人たちに引渡し、そして心配をかけないようできるだけの笑顔で言いました。

 「じゃ、お疲れさん。明日から休むけどあと頼むわ。よろしくね」

デスクまわりもすっかり片づけ、帰りかけようとすると、部下の一人がわたしを呼びとめました。

そして

 「…中川さん、あの、ハグさせてください」と。

  え?ええ?

  みんなが集まってきて、私は次々彼らのハグを受けました。

ありがとう、ありがとう!

みんなのエールがその腕から伝わってきます。

  「おれ、なんか泣きそうです~」と一人が言って

 「こらこら、死ぬわけちゃうで!」と私の一言に全員が笑いました。

 

 

夏が熟れるころ、一旦治療を終え、私は会社に戻ることができました。

 久しぶりの職場は笑顔であふれ、賑やかでした。

なんでも、私が入院してから、後輩の一人が会社の敷地の隅にスイカの苗を植えたのだとか。

 「このスイカが実るころ、中川さんはぜったい戻って来る」そう思いながら植えたんです、と彼は話してくれました。

 彼は始業よりも1時間早く出勤して、「ありがとう」と声をかけ続けながら苗の世話をし続けたそうです。

 

 

彼は自信に満ちた笑顔を向け

「そのスイカ、中川さん、見て下さい!」。

 表に出て、彼について植栽の茂みに入ってゆくと、「おお!」。

スイカは石垣沿いに、ひとつ見事に実っていました。

 立派な縞模様に夏の日が照り返しています。

みんなの歓声と拍手の中で、私はそのスイカをしっかり胸に抱きました。

 小ぶりながら、ずっしりとした重さ。

ありがとう。ありがとう、みんな。

それは、じぃーんと胸に沁みる重さです。

そして切り分けてみれば、なんとも心に染みわたる甘さ。

わたしが生涯忘れられないスイカはこの「ありがとうスイカ」。

あのときのみんなからのハグを、そしてあのスイカの甘さを思い出すたびに、わたしもわたし以外の誰かの良い力であれたら、と思うのです。

 

 

 ありがとうございます。

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